分子集合化学 吉田研究室

生体内では様々な分子が自発的に集まることで,「機能」を発現します。このような分子集合の過程を模倣して,「自在に制御できる分子集合系を創りだしたい」というのが当研究室の目標です。これまでは,特にキラル分子に着目して研究を行ってきました。

研究テーマ

(1)液晶研究とは?

液晶ディスプレイ(LCD)に使われる液晶は、私たちの生活に欠かせない材料です。では,液晶とは何でしょうか?
高校では物質の3態(固体・液体・気体)を学ぶと思いますが,実はこれらに分類できない物質も存在します。その1つが「液晶」です。液晶は,固体と液体に時々現れる状態(相)で,第4の相とも呼ばれます。液晶は,固体と液体の中間的な性質を示しますが,その重要な性質の1つが,「分子が自発的に並ぶ」ことです。これを配向性と呼びます。ただ,完全に並んでいるわけではなく,ある程度並んでいる。この中途半端さ(適当さ)が液晶の液晶たるゆえんです。ガラスの表面を布でこすった後に,液晶(ネマチック液晶,図1)を塗布するとガラス表面で一方向に並びます。また,電圧をかけると,その向きを変えることがあります。これらの性質を利用したのが,液晶ディスプレイです。液晶を研究していると言うと,ディスプレイを研究しているんですか?と質問されることもありますが,私はディスプレイではなく,液晶の不思議な性質に興味を惹かれて研究しています。
 例えば,ネマチック液晶に「キラル剤」という特殊な物質をほんの少し混ぜると、分子が螺旋(らせん)状にねじれた「キラルネマチック相」という状態に変化します(図2)。この螺旋構造は、特定の光を反射するなどのユニークな性質を持っています。このキラルネマチック液晶は盛んに研究されてきましたが,まだまだ基礎的なところは未解明です。たとえば,右巻きのらせん構造を誘起するには,どのようなキラル剤が有効なのか?経験的な知見はありますが,未だに理論的に予測すること(分子設計すること)は難しい課題です。
 そこで,我々の研究室では、従来のキラル剤として用いられてきた有機化合物の代わりに「金属錯体」(金属イオンに有機分子が結合したもの)をキラル剤として検討してきました。金属錯体はプロペラのような特殊な形をしており、極めて少量で液晶を強力にねじ曲げる力(らせんを誘起する力)を持っています。また、錯体の設計図を書き換えるように形を工夫することで、螺旋の向きをある程度コントロールできるようになってきましたさらに、金属錯体が持つ「色」を逆手に取り、液晶内部の微細な構造を観察する「探針(プローブ)」として利用したり、特定の光を感知する高性能センサーへと展開してきました。これらの研究は、液晶を単なる表示材料から、光を高度に操る「多機能材料」へと進化させる大きな可能性を秘めていると考えています

図1. 代表的なネマチック液晶

図2. ネマチック液晶に「キラル剤」を添加することで誘起されるらせん構造

(2)金属錯体液晶の開発

上記の(1)では、主役は液晶であり、金属錯体はわき役(ただし重要な)でした。一方で、金属錯体を骨格とする液晶は、金属イオン由来の物性と液晶由来の柔らかさを併せ持つ材料として期待されています。当研究室でも、カラムナー液晶相を示す錯体液晶の開発に取り組んできました。主なカラムナー相は、円盤形状をもつ分子が1次元に積層してカラムを形成し、このカラムがさらに2次元的に集合することで形成されます。ディスプレイ材料として用いられる液晶は主に棒状分子から構成されるのに対し、カラムナー液晶は1977年に初めて報告された比較的「若い」液晶相です。   カラムナー相を構成する分子がキラルな場合には、分子がらせん状に積層したヘリカルカラムナー相の発現も報告されています。ヘリカルカラムナー液晶では強誘電性の発現が確認されるなど、液晶の新たな応用に向けた展開が期待されています。一方で、ヘリカルカラムナー相そのものの報告例が少なく、その内部構造については不明点が多いのが実情です。

カラムナー相を発現する分子骨格としては、一般に剛直な多環芳香族が好まれます。そのため、キラリティーはほとんどの場合、分子末端に導入されてきました。この場合、分子はお互いのキラル部位が重ならないように積層するため、キラル部位間の相互作用は弱くなります。一方、トリスキレート型の八面体型金属錯体では、分子中心にキラリティーが存在します。そのため、もし八面体型金属錯体を集積できれば、キラリティー部位同士が強く相互作用することが期待されます。これまでに、いくつかの錯体を検討した結果、図に示した錯体がそのエナンチオ体において、ヘリカルカラムナー相を発現することを見出してきました(Chem. Commun. 2020)。

図2.カラムナー相を形成する金属錯体

(3)粘土鉱物内部での分子集合

「粘土」は子供のころから身近な材料です。一方で、「粘土鉱物」は層状構造をもつ結晶性の無機物質で、層と層の隙間に様々な物質を取り込んだり、一枚一枚の層に剥がれたりといった様々な特徴をもつ優れた材料でもあります。そのため、種々の化学製品(化粧品や車の塗装材など)に利用されています。例えば、粘土層間にキラルな物質を吸着させたものは、高速液体クロマトグラフィー用の光学分割カラムとして利用されています(参考:株式会社大阪ソーダのHP)。

一方で、粘土層間に取り込まれたキラル物質がどのように並んでいるのか?そもそも規則的に並んでいるのか?という点が、研究者にとっては大きな謎でした。当研究室では、キラルな分子がラセミ状態(右手型分子と左手型分子が1:1で混在する状態)にある場合、粘土層間で2分子層を形成し、かつこれらが六角形状に規則配列することをX線回折測定により明らかにしています。2次元空間で分子がどう並ぶのか?という基礎科学的な興味に答える結果だと考えています。

図3.粘土鉱物の内部で見られたキラル錯体の2次元ヘキサゴル配列

STAFF

●准教授 :  吉田 純  Jun Yoshida

●Email : yoshida.jun@nihon-u.ac.jp

●Office : 本館6階 06030室(化学603室)

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2004年 東京大学理学部地球惑星物理学科卒業
2006年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修了, 修士
2009年 東京大学大学院理学系研究科化学専攻修了, 博士(理学)
2009年 花王株式会社
2010年 北里大学理学部化学科 助教
2014年 Simon Fraser University(カナダ) 客員研究員
2016年 北里大学理学部化学科 講師
2021年 日本大学文理学部化学科 准教授

 

所属学会
日本化学会, 液晶学会, 錯体化学会, 粘土学会

 

●助手 :  原 伸行  Nobuyuki Hara

●Email : hara.nobuyuki@nihon-u.ac.jp

●Office : 本館6階 06030室(化学603室)

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2016年 近畿大学 理工学部 応用化学科卒業
2018年 近畿大学大学院 総合理工学研究科 物質系工学専攻 博士前期課程修了
2021年 近畿大学大学院 総合理工学研究科 物質系工学専攻 博士後期課程修了 博士(工学)
2021 立命館大学 グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員
2024年 日本大学文理学部化学科 助手

 

所属学会
日本化学会