分子変換化学 嶋田研究室
私達が豊かな生活を送るためには欠かすことのできない医薬品や農薬,香料,化学繊維や有機ELといった機能製品の多くは有機分子です。分子変換とは,有機分子を組み上げるために必要な合成化学的手法であり,ものづくりの根幹をなす科学技術です。嶋田研究室では,独自の『分子触媒の創製』と『合成試薬の創製』を研究の技術的基盤とし,高い効率性と高い環境調和性を兼ねそろえた,新しい『有機合成反応や有機合成手法の開発』を行っています。
研究テーマ
触媒的アミド化反応・ペプチド結合形成反応の開発
アミドは多くの医薬品や生物活性天然物の化学構造に普遍的に含まれる化学結合様式です。また近年,中分子創薬におけるリード化合物としてペプチドが注目されています。こうしたことから,アミドやペプチドの効率的な合成手法の開発は,特に医薬品開発の分野において,極めて重要な研究課題として広く認知されています。私達は,独自に創製した新規有機ホウ素化合物DBAAが,脱水縮合型アミド化反応ならびにペプチド結合形成反応における高活性な触媒として機能することを見出しました。本成果により,従来,アミドやペプチドの化学合成に利用されてきた『化学量論反応』を『触媒反応』へと転換することができました。

糖質の位置選択的分子変換反応の開発
糖鎖は,ウィルス・細菌感染や免疫反応,細胞間の識別・接着,増殖と組織の分化などのさまざまな生命現象において,情報伝達分子として深く関与していることが知られています。こうした糖鎖の機能解明を目的とした生物学的研究を一層推進するためには,素材となる高純度糖鎖の量的供給が不可欠です。私達は,糖質に複数存在する遊離ヒドロキシ基のうち,特定のヒドロキシ基のみを分子認識し,直截的かつ高位置選択的に分子変換するために有用な有機ボロン酸触媒の開発に成功しました。本成果により,従来,糖質の修飾や糖鎖の連結では必要不可欠となっていた『多段階』による合成をより『短工程』で達成することができました。

硫酸化糖脂質の簡便合成手法の開発
グリセロ糖脂質に分類されるセミノリピドとスフィンゴ糖脂質に分類されるスルファチドは,哺乳類の硫酸化糖脂質の大部分を占める二大硫酸化糖脂質として知られていますが,その機能は完全には明らかになっていません。私達は,ボロン酸が潜在的に有する分子認識能に着目し,糖質に存在する特定のジオールを高位置選択的に保護することができる有用保護試薬o-FXylBAを独自に開発し,これを利用することで二大硫酸化糖脂質に共通する硫酸化糖質構造を効率的に合成する手法を見出しました。本成果により,機能解明を目的とした生物学研究への貢献が期待される『高純度硫酸化糖脂質の簡便で高効率的な合成手法』を確立することができました。

STAFF
●准教授 : 嶋田 修之 Naoyuki Shimada
●Email : shimada.naoyuki@nihon-u.ac.jp
●Office : 本館7階 07060室(化学701室)
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●日本大学研究者情報はこちら
2001年 | 日本大学生産工学部工業化学科 卒業 |
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2003年 | 日本大学大学院生産工学研究科工業化学専攻博士前期課程 修了,修士(工学)取得 |
2007年 | 北海道大学大学院薬学研究科創薬科学専攻博士後期課程 修了,博士(薬学)取得 |
2007年 | 北海道大学大学院薬学研究院 講座研究員 |
2008年 | 北海道大学大学院薬学研究院 助教 |
2009年 | ハワイ大学化学科 博士研究員 |
2011年 | 北里大学薬学部 助教 |
2017年 | 東邦大学理学部化学科 非常勤講師(-2021年,兼務) |
2019年 | 北里大学薬学部 講師 |
2021年 | 日本薬学会化学系薬学部会賞受賞 |
2022年 | 日本大学文理学部化学科 准教授 |
2023年 | UBE(旧 宇部興産)学術奨励賞受賞 |
所属学会
日本薬学会,日本化学会,有機合成化学協会,日本プロセス化学会,日本糖質学会