原生生物学研究室
岩本政明 教授
明松隆彦 助教
単細胞生物たちが見せるミクロの世界に広がる生物多様性
単細胞生物は一つの細胞がそのまま一つの生物個体です。多細胞生物がさまざまな器官・組織で分業している生命活動を一個の細胞で行わなければならないため、単細胞生物の細胞は非常に複雑で、分類群ごとに多様化しています。当研究室では、真核単細胞生物の一大グループである繊毛虫類に注目し、彼らのユニークな細胞構造と機能に関する分子細胞生物学的な研究を行います。繊毛虫が進化の過程でどのように細胞を特殊化させてきたのか、また、特殊化した細胞が彼らの生存戦略にどう役立っているのかを明らかにしたいと考えています。
研究内容
大小核の核膜孔複合体の構造と機能を分析
真核生物の細胞は核を持ち、その中に遺伝情報の本体であるDNAを収納しています。一般に細胞は1個の核を持ちますが、繊毛虫類は大きさと働きの異なる2種類の核を持っています。一つは多細胞生物の体細胞核の働きを持つ大核で、もう一つは生殖細胞核の働きを持つ小核です(図1)。繊毛虫は異なる核を持つことで、単細胞生物でありながら遺伝情報を一世代限りの体細胞機能のものと、次世代に継承する生殖細胞機能のものに分けているのです。
では、繊毛虫は二つの核をどのように見分けているのでしょうか? 核を包んでいる核膜には核膜孔複合体という構造体が埋め込まれています。これまでにテトラヒメナの核膜孔複合体を構築する核膜孔タンパク質を28種類発見しましたが、その中には大核の核膜孔複合体だけに見られるもの(図2の赤色の成分)と小核の核膜孔複合体だけに見られるもの(図2の青色の成分)が存在しており、繊毛虫細胞はそれらを見分けていると考えられます。それぞれの核に特異的なこれらの核膜孔タンパク質の機能を解析することによって、細胞質と大小核の相互作用のメカニズムを明らかにし、繊毛虫細胞が2種類の核を見分けて、正しく制御できる仕組みについて理解することを目指します。
図1.特殊な蛍光色素でDNAを染色したテトラヒメナ(Tetrahymena thermophila)
図2.テトラヒメナの大小核の核膜孔複合体(構造モデル)
上側が細胞質、下側が核内。赤色で示す成分は大核に特異的な核膜孔タンパク質、青色で示す成分は小核に特異的な核膜孔タンパク質。肌色で示す構造部分は共通のタンパク質成分によって構築されている。
クロレラの細胞内共生に関わる宿主遺伝子の探索
上記以外にも、各人の興味に応じた繊毛虫の形、動き、機能、生態に関するさまざまな研究テーマを選択することができます。繊毛虫は分子生物学の実験生物として歴史が浅いため、生体機能の分子メカニズムに関してはまだまだ分からないことだらけで、取り組むべき課題が山積しています。一緒に繊毛虫の謎を解き明かしていきませんか?ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)の細胞内には数百個のクロレラが共生しています(図3)。ミドリゾウリムシは窒素源などと共に移動性をクロレラに提供し、代わりに光合成産物を受け取っています。しかしながら、両者は絶対的に依存し合っているわけではなく、クロレラを除去してもミドリゾウリムシは生きていけるため、両者の関係は細胞内共生体がオルガネラ化するごく初期の段階にあるのではないかと考えられています。
ゾウリムシ属の中ではミドリゾウリムシだけがクロレラを維持できます。テトラヒメナ属にもクロレラを共生させている種(Tetrahymena utriculariae)がいますが、それ以外の種はクロレラを維持できません。また、繊毛虫以外の単細胞生物や、多細胞動物でもクロレラを共生させている例が見られることから、クロレラを細胞内に維持する能力は生物進化の系統とは無関係であることが分かります。おそらく、宿主がもつ既存の普遍的な遺伝子に生じた何らかの変異がクロレラの維持を可能にしているのではないかと予想されます。その遺伝子を特定できれば、あらゆる真核細胞にクロレラを共生させることができるかもしれません。ミドリゾウリムシをモデルに、クロレラ細胞内共生における宿主-共生体間相互作用の分子メカニズムを明らかにしていきます。
図3. 細胞内に大量のクロレラを含んだミドリゾウムシ(Paramecium bursaria)
【連絡先】
日本大学 文理学部 生命科学科 原生生物学(岩本・明松)研究室
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