塚本晋也監督『野火』上映会+トーク(2023年12月15日)報告
2024.01.18
ドイツ文学科お知らせ
ドイツ文学科+文理戦略委員会主催
塚本晋也監督『野火』上映とトーク
(文章:渋谷哲也)
ドイツ文学科教員の渋谷哲也です。専門はドイツ映画研究ですが、日本映画についても映画館および学内で作品解説や監督と対談イベントを催してきました。2021年度本学に着任して以来、毎年ドイツ文学科主催で話題作の監督を招いて上映と特別講義をおこなっています。2021年度は『東京クルド』の日向史有監督を招いて日本で難民申請中のクルド人青年たちの日常について短編動画と共にご紹介いただきました。2022年度は短編映画『片袖の魚』の東海林毅監督と主演イシヅカユウさんを招いて、映画のトランスジェンダー表象をめぐって当事者が演じることの意義についてなど多彩な議論を展開しました。それぞれ90分の授業枠に収めてきましたが、今年度は念願だった長編映画の全編上映と監督の講演ということで、2014年製作『野火』の塚本晋也監督をお招きして90分たっぷりお話を伺うという贅沢なイベントを実現できました。学内のオーバルホール(162名収容)に大学内外より60名以上の方々にご参加いただき、監督に向けての熱心なコメントや質問を数多くいただきました。またこのイベント宣伝のためのポスター掲示とチラシ配布で下高井戸商店街の皆さんにもご協力いただけたことも大変ありがたいことでした。
映画『野火』は作家大岡昇平による同名小説の映画化です。第二次大戦末期にフィリピンのレイテ島を舞台にした一兵卒のサバイバルの記録として、戦争の過酷な現実とどう向き合い語り継いでゆくかというテーマは戦後70年以上経った現在なおさら切実な問題となっています。塚本監督も、今また世の中が戦争を肯定するキナ臭い方向に進んでいることに危機感を感じてこうしたテーマを取り上げるようになったとお話しされていました。
過去の戦争と向かい合うこと、とりわけ暴力と加害というネガティヴな側面を注視することは戦後ドイツにおいて積極的に取り組まれてきたテーマでもあります。その意味で塚本監督の試みはこれまで美談として戦争ドラマを語ることの多かった日本映画においては極めてユニークかつ重要な試みとして、ドイツ文学科の私たちにとっても有益な刺激を与えてくれる題材でした。
塚本監督とのトークでは、今回の上映作『野火』は大岡昇平の原作小説を10代で初めて読んだ時のインパクトから、映画化を早くから構想しながらもなかなか実現しなかったこと、ようやく完成させた後は毎年終戦の8月に監督自身が率先して上映活動を繰り返してきたことをお話しいただきました。今回の上映は12月という季節外れではありますが、時節に関係なく監督の思いと映画製作の裏話を存分に伺えました。
とりわけ興味深かったのは、予算の極めて限られていた製作状況で、監督曰く「とんち」で様々な場面を構築していった点です。フィリピンロケに登場するのは主役の田村一等兵を演じた塚本監督と現地の若者カップルだけで、その他の場面は全て日本国内やハワイなどで撮影されたそうです。ジャングルの迷宮や閉塞感が撮影、編集そして演技の力によって生み出されたわけです。なんと帰還兵を荷台で輸送するトラックも段ボール製だとか。また演出家としての塚本監督のこだわりにも注目させられました。現地の教会の中に一人隠れた田村一等兵が、そこに入って来たフィリピン人の若いカップルをベンチの下から盗み見る場面について、現地の若者のオーディションでは女性は足や膝の見栄えで選んだということでした。こうしたこだわりを伺うと映画監督という仕事のユニークさを実感します。また映画中盤にある夜中の草むらで一斉射撃を受けて多く兵士たちが命を落とす凄惨なシーンは当初はシナリオに入っていなかったのですが、実際に撮影を進めてみるとやはり必要だと後で付け加えられたということです。血や臓物が飛び散るグロテスクな映像美学は、実は塚本監督の過去作『鉄男』『東京フィスト』などを観ているとおなじみの趣向なのですが、それが本作では戦争の狂気や残酷さと結びついて活かされていることにも感嘆させられます。
このように面白いエピソードが尽きることなくあっという間のトークでした。最後に公開中の新作映画『ほかげ』についても予告編と共にお話しいただき、塚本監督の戦争の暴力とサバイバルのテーマが継続していることを納得しました。次はぜひ『ほかげ』のお話も伺いたいです。
本学での映画イベントは今後も継続してゆく予定です。次回はさらに余裕を持って宣伝告知に努めたいと思いますので、ぜひ足をお運びください。




